はつもの

いきてるよ~

津波、あるいはハリケーン

前回、前々回の更新で、とあるお笑いコンビに熱が上がっていることを書いた。
その発端から今に至るまで、これといって面白いことは無かったものの、
ここが自分の人生のターニングポイントかもしれないのでとにかく書きたいだけログに起こしておこうと思う。
クソ長いこれ読むくらいならサタンタンゴ2周見る方がよほど有意義。
タイムイズマネーだぞ。

 

 


2021年12月19日の日曜日、夕方。
あとちょっと出社すれば冬期休暇、2日後に心療内科の受診を控えた自分は、
月曜の気配に圧されベッドで寝転がって虚空を見つめていた。
休みが近く、寝不足解消したてだったためにしんどさはそれほど無かったが、
やはり何もやる気が起きない状態だった。

 

そういうときにできることといえば、Twitterしかない。
TL監視は時間を食いつぶす代わりにHPもMPも消費しない。
黄色いカバのアイコンと茶色いマレーグマのアイコンが芸人とM-1について呟いているのを読む。
そういえばそういう時期か。投票結果をツイートしてるってことは放送今日か。
金属バットって『うりゃ』の人か。男性なんちゃらは知らんな。
お、オズワルドとひまわりの人決勝いるじゃん。2019おもろかったな。
へー、聞きなれないカタカナのあのコンビも決勝いってんだ。カバたちが配信でその話してんの聞いて去年ネタ動画見たっけ。

真っ黒な左の人が棒立ちする横で白Tの人が海外有名歌手の誇張マネみたいなことをしているようでしていない、とにかく動いて叫ぶネタをつべで見て、唖然としながら「始発待ちの二人はヤベー芸人が好みなのかな」と思った記憶。

そしてドット絵ハゲおじさんのアイコンの人もツイートをしていた。
「ぼくもM-1みようかな」と。
この人は別にお笑い好きじゃないのに見るのか。
てことは自分も観ておかないと配信の話ついてけない可能性あるな。
そう思って、頭がからっぽのままテレビをつけた。まだ始まってないみたいだった。

オープニングムービー。知ってる人一人もおらんけどかっこよかった。
審査員登場。いやこれめちゃくちゃかっこいいでしょ。テレビつけてよかった。


と、まだ主役たちが出てきてないのに既にノリノリになった自分はTwitterに脳みそを直結し、始発待ちの言動を同期した。

これはフォロワーに同じ趣味の人間がいないのをいいことに、楽しさアピール欲があふれて調子に乗った時のムーブだ。
他人の考えを我が物顔で呟く。知ったかぶりに嘘を重ねる。非常によくない癖だ。
この時は「白黒のやべーコンビの優勝を応援する」「金属バットが敗者復活できるように祈る」という姿勢をインプットした。

この人たちの事なにもしらないのに。

そして、普段全然同じコンテンツについて話すことのない友人2人がM-1のことをつぶやき始めた。
自分はますます調子に乗った。

 

1組目でいきなり腹筋死んだかと思うほど笑った。赤いジャケットのでかい人の説明の時点で着眼点に感動する。壮絶なまでに面白かった。
2組目で確実に息の根止まると思った。奇怪にもほどがあるし既視感もあるのに、なぜか笑わずにはいられなかった。始発待ちインプットによる贔屓がどのくらいあったのかもよくわからない。そういえば自分は勢い押しの芸人が好きだったな、と思い出す。ただただ面白かった。
あとはもう最後まで笑い通し。爆笑なんて久しくしてなかったからとても気持ちがよかった。
真空とももだけちょっとトーンダウンした。頭が馬鹿になってたんだと思う。

Twitterではカバが2組目のせり上がりで泣いてた。
軽々しく知ったかぶりインストールしてごめん、と思った。

 

とにかく、とにかくおもしろかった。
余韻がものすごかった。
Twitterで2組目のネタのノーカット版があるらしいと聞いて見た。
やっぱ意味わかんねえなと思った。後半はどう笑えばいいのかわからなかった。

 

翌日、まだ余韻が取れずオズワルドのつべを見漁った。
ビッグピースが頭から離れなかった。

 

そのまた翌日、心療内科受診の日。
2日間笑いっぱなしだった自分はメンタルがマシになってしまっていた。
解決策は得られなかった。自己分析の答え合わせにしかならなかった。
家に帰ってオズワルドのネタ動画を見た。

しかしオズワルドに飽きが来ていた。
同じネタを2回見れなかった。
そして脳裏にずっと白黒の奇怪なコンビがチラついていることにも気づいていた。
何故こんなに意味不明なのにあんなに笑ってしまったのか。
その答えが知りたくて、Twitterで見かけたつべを見てみることにした。
テレ朝の「もういっちょTV」を最初から。
プロの編集が入った動画ならそんな濃ゆいものじゃないだろう、50本ちょっとの動画群なんて一瞬で見れてしまうな、と思いながら再生を押す。
「始動!」と銘打たれた1本目の動画から、ボケの方がこわいボケをしていてこわかった。

それから一週間、仕事→もういっちょ→就寝ループを繰り返した。
虚空を見つめる暇など無かった。勝手に涙が出てくることもなくなった。
途中、何個も怖い動画があった。たぶんボケなんだろうけど笑い方がわからなかった動画もあった。胃が縮こまるような動画もあった。それでも見続けるのをやめられなかった。仕事中も頭から離れなかった。


どうやら沼に足を、いや大災害に巻き込まれたらしいと、最新の動画に追いつくまでもなく気付いた。
今の今まで抱いていたあらゆる悩み、考察、不安、感情、思考回路の一切を踏みにじられた。事実、踏みにじられた。コテンパンに。跡形もなく。
経験したことのない感覚だった。わけわかんないのに清々しかった。
茶番の天才出てこいやソングの歌詞そのままに、「俺の心を土足で踏みにじるような」天才。それはこのボケの人だ。そうとしか考えられなかった。
当の天才は自分が面白いと思うことを思いついたままにやっているだけのようだった。
そのシンプルさが凶暴極まりなかった。
対峙して為す術などありゃしなかった。
こんな人間が存在してたまるかと思った。
こんな人間がいるならまだ人生捨てたもんじゃねえなと思った。


しかし自分は冷静なつもりだった。

今まで芸能人に興味が向いたことは一度もない。特別好きな芸人がいたこともない。
強いて言うならアクセルホッパーが好きだったがあれはネタの一つにすぎないし、たまたま見れたらラッキーくらいの、好きと言っていいのかすら微妙なレベルだ。
だから今回も一過性の熱だ、2週間もしたらすべからく飽きるだろう。
そう思った。
結果、それがとんだ見当違いに終わったことはご覧の通りだ。


そこからはもう、すべての時間が香木コンビだった。
芸能人の追っかけ方がさっぱりわからなかったり、ファンの性質が見慣れなかったり、とにかくなにもかもが新鮮だった。
予定を把握する。観る。笑う。
各種情報を遡る。観る。笑う。
ライブ配信を買う。観る。笑う。クレカの利用明細を見て青ざめる。
共有欲が抑えられなくなる。家族に見せる。いっしょに笑う。
情報量の多さに熱が出そうだった。いくら観ても全然観尽くせる気配がなくてわくわくした。
それは今も変わらない。

人柄やエピソードの蓄積によるものなのか、単に慣れたからなのか、
M-1でやったネタのフルバージョンもいつのまにか最後まで面白く見れるようになっていた。
川原さんのつべに上がってた花見バージョンが最高だった。

 

ライブにも行った。
間近で見る香木コンビのネタは迫力が違う。空気が違う。
ボケが空を切る音が聞こえる。ツッコミが動く気配を感じる。
ボケの人はえげつない量の汗をかいていた。ツッコミの人は顔が白かった。
生で見る二人は、画面越しで見るよりもごつごつしてるな、と思った。
当然、べらぼうに面白かった。酸欠でしぬかとおもった。

このライブを生で観れたことが一生涯の思い出になることは明らかだった。

まだあれからひと月も経っていない。今も余韻をかみしめている。

 


毎日笑い声をあげているからか、体調不良が著しく減ったように思う。
しかし、部屋の汚さが昨年の比じゃないことを考えると、今は麻薬を浴びてハッピーになっているだけかもしれない。
しぬなら今だと強く思う。
でもこんなにアクティブで自立できていたことは生涯で一度もない。
せめて世間に気後れしない状態を謳歌したい。

人生、まだ変えられるかもしれん。