特定厨ではない。やろうと思ったところでそんな技術も能力もないからだ。
そもそも苦労してまで個人情報を知ろうとは思っていない。
だが、特定のハードルが極端に下がっている場合は別だ。自分の手が届く範囲にある情報を逃したくない性分である以上、それがプライバシーの侵害になる可能性があろうとも、一度試してみたくなってしまう。
あちこちにヒントが散らばっている。Googleの検索バーにそれをテキトーに放り込んでみる。
もしそれで、本当に特定できてしまったら。そんな可能性がどれだけあるんだと半分笑いながら。いや笑わんけど。
特定できてしまった。
本当に特定できたかの裏付けもできてしまった。全部書いてあった。
動画で職業と名前の漢字を一部明かした時と、居住県がバレた時、その両方で検索結果のトップにいた、とあるお店のブログとSNSに。
当時は「あまりにそれっぽすぎる情報が引っかかって怖い」という気持ちが強くて中身までよく見ようとはしなかった。だからきっと人違いだろうと思った。
さっきなんとなくそのSNSを見ていた。聞き覚えのある情報がいくつか、最近の投稿に載っていた。
お子さんの状況、定休日、家族構成、ペットの名前と柄。
遡れば遡るだけ、疑心は確信に変わる。
リフォーム、出産。
出来事も時期も完璧に一致していた。
遡る手は止まらない。不思議と止まらない。形容できないぬるい気持ちが胸のあたりにずっとこもっている。
家族写真が載っていた。右端に見覚えのある天パがいた。
ちょうど1年前、手違いでインターネットに顔を晒してしまった面白おじさんが、いた。
だからといってどうということはない。去年の顔出しをリアルタイムで見てしまった時のほうがよっぽど心臓に悪かった。
家族みんな名前めっちゃかっこいいなとか、クオリティが想像の何倍もすげえなとか、嫁さんめちゃくちゃ美人でかわいいなとか、髭ちゃんとしてると男前だなとか、そういう感想はいっぱいある。ネガティブな感想はたぶんひとつもない。
ただ、誰にも言えないというだけの話。王様の耳はロバの耳~!ができる場所はリアルのこの一人ぼっちの部屋でだけだ。
特定を考えたりやったりしたことがある人ならとっくにわかってた情報だと思う。問題は、ごく簡単な検索だけで当ててしまったこと。
本人は論外、関係者、視聴者、誰か一人が不適切な環境でそれを言ってしまったら、たぶん、このおじさんの個人情報は活動名と紐づけられて一生インターネットに残る。そうなったらどうなるのか。
実況畑でいろいろ言われるだけなら一番マシだ。逆に、もしもリアルの交友関係にネット活動の情報がバレたらどうするのか。それは絶対に避けたい。なぜならこのおじさんのことが大好きだから。くっさいけどほかの粋な言い方が思い浮かばない。このおじさんと、おじさんの家族にはどうか余計なトラブルなく幸せでいてほしい。
雑談とかで嫁や子供の話するときは常に「そういうのもっとちょうだい」って思ってる。無限に聞けるし無限に聞かせてほしい。家族の話を聞きながら飲む酒が一番うめえんだ。
だから自分が何でこれをブログに残しておこうと思ったかはわからない。誰にも言いたくはないし言ってはいけないけど、「知っている」アピールはしたくなるのだ。愚か。
結局検索という行為をした時点で特定厨なんだろうか。
特定厨とは、ある情報から個人や場所を特定する人物の蔑称である。特定班とも呼ばれるが、こちらは蔑称としての意味合いは弱い。
特定班ではないから特定厨なんだろう。たぶん。流布してないだけマシか。
どうか人生や特徴が被りすぎているだけの赤の他人であってくれ。